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「女神の系譜-後編-」 by月琉様

いよいよ超大作完結編でございます!
謎はまだまだ未来へ持ち越されるようですが、私の中の美奈子ちゃんの謎が解けてすっきりしました(*´∇`*)
こんなに奥深いお話をありがとうございました!
そして長編、お疲れさまでした(^人^)

作品をご覧になりたい方はクリックからお進み下さい。
!こちらの作品の転載は厳禁です!




「女神の系譜-後編-」 written by月琉様


───・・・金曜日17時半、亜美のマンションの屋上にて。 

予定通り "天体観測の為" 亜美の住むマンションの屋上を開けてもらったうさぎたち。 

「わぁ…見て見て、星野!麻布十番の街が一望できるよ!」 

「おおっ、すげぇな…。あっ、あれ学校じゃね?!」 

「えっ!どこどこ?!」 

まるで子供のようにはしゃぐうさぎと星野を見てレイは少し不機嫌そうに横に居た美奈子に話しかけた。 

「まったく!あの二人何しに来たか分かってるのかしら」 

「くすくす、レイちゃん。そんなに真面目にならなくても大丈夫よ?」 

「…何言ってるのよ美奈子ちゃん、これが真面目にならないでいられる訳ないでしょ?!」 

「うさぎちゃんは…きっと一番心配してくれてると思うの」 

「──…それは、知ってるわ。うさぎだからね」 

「だから、あぁしてるんだと思う。レイちゃん気づいた?うさぎちゃんの目の下」 

「えぇ。うさぎにしては珍しく隈ができてるわね。それもくっきりと」 

ルナに聞いた所によると、うさぎは美奈子の前世の話しをされた日からなかなか寝付けずに寝不足になったらしい。 

それほど、うさぎにとっても衝撃的な出来事だった。 


ふと、まことが屋上を見渡すと当たり前だが人の姿がないことに気付く。 

「それにしても良く屋上なんてうちらだけの為に開けて貰えたな亜美ちゃん」 

「…実はね、うちのマンションの管理人さんは私のおじさんなの」 

「おじさん?」 

「うん、ママのお兄さんなの。小さい頃から遊んでもらったりお勉強教えてもらったり。ママ以上に一緒にいる時間が長かったかも…」 

「…亜美ちゃんちってやっぱ凄いのな…」 

「そんなこと////」 

「いや、凄いよ!だってこんな麻布十番一のマンション…いや、億ションの管理人がおじさんなんて滅多にいないよ」 

「そ、そうかしら…」 

「そうですよ亜美。うちのマンション以上にセキュリティもしっかりしてて、なおかつ親類が管理人だなんて素晴らしいじゃありませんか」 

「大気さんまで////」 

((((((亜美ちゃん(水野)気付いてない?!)))))) 

要は、安心して亜美を住まわせてられると大気は言いたいのだろう。 

だが、遠回しに言い過ぎたのか当の本人には伝わっていないようだ。 

「さぁ、みんな時間よ!」 

「ルナと僕とでサークルを作るから中に入って変身するんだ!」 

そう言うとルナとアルテミスは呪文を唱え始める。あの時と、月へ行くためにサークルを作った時と同じように。 

《《****…*****……!!》》 

すると、まるでミルククラウンのような乳白色のサークルが出現した。 

「これに入るのか?」 

「ええ、そうよ。今回はアルテミスと一緒に作ったから貴方たち三人も一緒に入れる大きさよ」 

星野、夜天、大気は互いに顔を見合わせこくりと頷いて既にサークルの中に入っていた彼女達の元へ向かった。 

「美奈、夜天。君たちは中央へ…美奈は一番最後にヴィーナスクリスタルパワーとクレッセントパワーで変身するんだ」 

「分かったわ、アルテミス!」 

夜天の横でガッツポーズで元気に振る舞う美奈子。 

…ふと、触れあった肩がかすかに震えてるのに夜天は気づいた。本当は、不安で不安でどうしようもなくなっていることに。 

「美奈…僕がいるから大丈夫だよ」 

「夜天くん……うん。」 

大丈夫と自分に言い聞かせ、美奈子は瞳を閉じ時を待った。 

「行くよっ!みんな!」 

うさぎの声かけにサークルの中に居た全員が構える。 

「ムーンエターナールッ!!」 

「マーキュリークリスタルパワーッ!!」 

「マーズクリスタルパワーッ!!」 

「ジュピタークリスタルパワーッ!!」 

「ファイタースターパワー!!」 

「メイカースターパワー!!」 

「…行くよ…美奈!ヒーラースターパワー!!」 

「…うん…!ヴィーナスクリスタルパワーッ!クレッセントパワー!!」 


「「「「「「「「メーイクッ!ア───ップ!!」」」」」」」」 

その瞬間、辺りが強い光りに包まれルナとアルテミスが宵の空に向かい大きく叫んだ。 


「「愛の女神が守護する星、金星のマゼランキャッスルへ!」」 


「っきゃ…」 

ふわりと身体が宙に浮く。 
月へ行った時とは違うパワーを感じるのはライツの三人がパワーを分けてくれたからだろうか。 

それとも、クリスタルパワーとクレッセントパワーが相互作用を起こしたのだろうか。 

「ヴィーナス!手を!早くっ」 

「ヒー…ラー…はいっ!」 

伸ばされた手を取ると、ヒーラーがぐっとヴィーナスを自分の方に抱き寄せた。 

「美奈子ちゃん!気を付けて行ってきてね!」 

「ありがとう、うさぎちゃん!」 

「ヒーラー!愛野さんを守ってあげてくださいね」 

「メイカーに言われなくてもそうするわよ!ヴィーナス!しっかりあたしに捕まって」 

「えっ?!こう??」 

「オッケー!じゃあ、行くわよ!」 

「えっ?!っ…きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ~っ!!!?」 

ヴィーナスは言われたままにヒーラーの身体に手を回すと次の瞬間、光りの如き早さで流れ星の様に夜空へと飛び立った。 


「いってらっしゃーい!!」 

セーラームーンが消えて行った空を見るがもう既に二人の姿は無く、代わりにようやく光度を増した "宵の明星" が輝いている。 

「大丈夫…だよね」 

「ええ。二人ならきっと大丈夫よセーラームーン。」 

「ファイター…ありがとう!」 

「くすっ、どういたしまして」 

にっこりと微笑むうさぎ。 
大好きなファイターが励ましてくれたのだから、素直に二人を信じよう。 

うさぎはそう思った。 

が、星野の方は複雑だった。 

(可愛いっっ//// おだんごの奴、俺よりファイターの方が絶対好きだよな…くそっ!!) 

それを見ていたジュピターがセーラームーンに言う。 

「ねぇ…うさぎちゃんてさ」 

「ん?」 

「星野くんとファイターどっちが好きなんだい?」 

((まこちゃん!!!!)) 

「…へ?」 

「ま、まこちゃん何を突然…そんなの二人ともに決まってるじゃない!ねぇ、亜美ちゃん」 

「えっ?!えぇ…星野くんもファイターも同一人物ですもの…」 

まことの突拍子もない質問に焦ったのはうさぎでもファイターでもなく、レイと亜美の方だ。 

きっと今ごろ星野はショックを受けているだろう事が分かったから。 

だが、そんな二人の気遣いなどお構い無しにまことは続ける。 

「だってさ、ファイターと話してる時って凄く嬉しそうだから」 

「そ、そうかなぁ//// うーんと…星野とファイターは違うっていうか…何て言えばいいのかなぁ…とにかくファイターが大好きなのっ!」 

((…まとめちゃった!!)) 

「くすっ、ありがとうセーラームーン。あたしもセーラームーンが大好きよ」 

「ファ、ファイター////」 

暫し見つめ合う二人にマーズは星野を哀れむ。 

「…まったく、星野くんも報われないわねぇ」 

「くすくす、本人も今頃やきもきしているわね。」 

「メイカー!大気さんはどうなんですか?マーキュリーとメイカーが仲良くしてても焼きもちは妬かないのかしら」 

「大気?!うーん…」 

思いがけない質問にメイカーは一瞬驚いたが、直ぐにくすくす笑いマーズの顔を見て続けた。 

「そうね、きっと私がマーキュリーに手を出したら大変でしょうね」 

「…やっぱり。愛されてるわね、亜・美・ちゃんっ!」 

「きゃっ?レイちゃんたら突然なぁに?」 

「ううん、何でもなーいわよ!ね、メイカー?」 

「くすっ、ええ。」 

「メイカーまで!わたしに内緒で何話してたんですかっ?!」 

「ナイショよ」 

メイカーはそう言うと、マーキュリーの頬にちゅっとキスを落とす。 

「?!/////」 

一瞬にして顔を真っ赤にしたマーキュリーの頭を撫でながら、メイカーは少しずつ夜の帷が降り始めた空を見上げ、屋上にいた全員に言う。 

「さ、そろそろ私たちも引き上げましょう!あの二人ならきっと無事に戻ってくるわ…」 

・ 
・ 
・ 

──その頃ヴィーナスとヒーラーは… 

地球から見る星空と売って変わって、真空の闇が広がる宇宙空間を金星へ向かい飛んでいた。 

「…ヒーラー」 

「…何?」 

「ありがとう、一緒に来てくれて」 

「・・・──夜天がどうしても貴女を守るって聞かないんだもの」 

「夜天くんが?」 

「そうよ!…貴女は思ってる以上に夜天に愛されてるのよ?」 

「……ヒーラーは?」 

「え?」 

「ヒーラーはあたしのこと好きになってくれた?」 

「……ヴィーナス…」 

確かにヒーラーは美奈子がというよりセーラーチーム自体が嫌いだった。 

特に突出して目立っていた美奈子には余計に目が付き鬱陶しかったのを覚えている。 

だが、今は違う。 

ギャラクシアとの闘いの時に目の前でヴィーナスを失ってから… 

故郷に帰ってからも夜天が美奈子を想う強さに影響されて次第に彼女の存在を認め始めていた。 

「・・・──嫌いだったら今ここに居ないわ」 

「っ!!ヒーラー…ありがとう!」 

「…磁気嵐が来る…急ぐわよ」 

「ええ!!」 

そう言うとヒーラーはヴィーナスを抱き抱え一気にスピードを上げ、星空の海原を駆けて行った。 

「ところでヴィーナス」 

「何?」 

距離にしてちょうど半分ほど行った所でヒーラーからヴィーナスへ素朴な、いや基本的な質問がなされた。 

「金星へ行くって言ってたけれど、一体どうやって下りるつもりなの?金星は酸性の雨と二酸化炭素に覆われた灼熱の星って聞いてるわよ」 

「…マゼランキャッスルへ下りるの。」 

「マゼランキャッスル?」 

「そう。あたしたち太陽系のセーラー戦士は皆それぞれの母星にキャッスルを持っているわ。キャッスルの周りは酸素もあるし、地球と変わらない環境なの…──ってあたしも初めて行くんだけどねッ☆」 

ぺろっと舌を出すヴィーナスを見てヒーラーは思い出した。 

そうだ、彼女たちは銀河中のセーラー戦士が焦がれて止まない光り輝く太陽系のセーラープリンセスなのだと。 

その事実は思い出される度に少しだけ夜天の胸を締め付ける。 


"銀河一身分違いな恋" ・・・─── 


星野の言った戯れ言だと思っていたのに。 

気づけば自分も当事者になっていた。 

「…だから少し不安なの。初めて自分の星に行くのがこんな理由なんて何か…ね。」 

腕の中でしゅんと下を向くヴィーナスの頭をぽんっと叩き、ヒーラーは笑う。 

「こらっ、下を向いてる暇なんてないのよ?謎を解き明かしに行くんでしょ?大丈夫。あたしが…ついてるわ」 

「…!ありがとう…」 

いつも夜天が美奈子に言う "僕がついてるよ" この一言が彼女を笑顔にする魔法の言葉だと言うことをヒーラーは気づかぬうちに知っていた。 

ヒーラーもまたヴィーナスを笑顔にしたいと心の中では思っているのだ。 

そのまま暫く星の海原を飛んでいると、ようやく目的の星である金星が目の前に現れた。 

「・・・──金星…」 

「いよいよ…ね。」 

「…うん…」 

(ドキドキが止まらない…) 

あの日、真実を映すクレッセントコンパクトに謎の女神が映った時から不安感と隣り合わせにあった少しのワクワク感。 

早く真実を知りたい… 

その想いだけを胸にここまで来た。 

(…あの時のうさぎちゃんの気持ちが分かったわ…) 

「…ヴィーナス、何処へ降りるの?」 

「あそこよ…アフロディーテー大陸上空にあるマゼランキャッスル…」 

「あの島みたいに浮かんでるところ?」 

「そう。ドームで覆われているから外から中は見えないの…降りましょう」 

金星がかろうじて目下にできる距離で止まり、二人は向かい合い互いの両手をしっかり握る。 

「「セーラーテレポート!!」」 

金星大気の上層部には4日で金星を一周するようなスーパーローテーションと呼ばれる非常に強い風が吹いている。 

この風は自転速度を超えて吹く風という意味でスーパーローテーションと言われ、風速は秒速100mに達し、金星の自転の実に40倍の速さを持っていることになる。 

したがって、そのまま下降することはできない為セーラーテレポートを使う。 

勿論、そのことを美奈子が知っていた訳でも調べた訳でもなく亜美とアルテミスからの助言であることは言うまでもない。 

・ 
・ 

───・・・暗闇を消し去るような強い光りと共にヴィーナスとヒーラーは人工ドームの中に入った。 

瞑っていた瞳をゆっくりと開くと、視覚よりも先に強い花の香りが鼻につく。 

「…この香り…何処かで…」 

「ヴィーナス!あれを見てっ!」 

ヴィーナスは言われるままヒーラーが指差した方向を見ると、そこにはマゼランキャッスルの周りを囲むように一面の白い花が咲き乱れていた。 

「あれは…───アネモネ…?」 

「アネモネ?」 

「ええ…夢で…アフロディーテーの後ろに咲いてたの…花言葉は…っ?!」 

《・・・真実・・・》 

ヴィーナスの言葉を遮り、脳に直接語りかける声が聞こえた。 

「ヴィーナス…?」 

「…声が…聞こえたの…」 

「声?あたしには何も聞こえなかったけど…」 

《ヴィーナス…いらっしゃい…》 

「…っ!!ほら、また!!マゼランキャッスルの方からだわっ!」 

「待ってっ、ヴィーナス!!」 

その時のヴィーナスには既にヒーラーの制止は聞こえていなかった。 

只々、脳から身体全体を支配するような声に導かれるようにマゼランキャッスルへとヴィーナスは消えて行った。 

そして、そのヴィーナスを追いかけるようにヒーラーもまたマゼランキャッスルへ吸い込まれるように姿を消す。 

・・・──カツン 

降り立った白い大理石に二人のヒールの音が響く。 

「…ここが…マゼランキャッスル…あたしのお城…」 

ヴィーナスが周りを見渡すと、白い大理石と協会のように高い天井から吊り下げられた豪華なシャンデリアの他には何も無い広間が広がっている。 

「ヴィーナス、あそこに扉が」 

「どこに?」 

「上を見て…」 

「ほんとだ…あんな上に…どうして扉なんか…」 

上を見上げると、大理石の壁をくり貫くように天井と同じ高さに扉と踊り場が備え付けられている。 

「…行きましょうヴィーナス!」 

「うん!」 

─・・・カッ!! 

勢い良く音を立てて大理石の床から高く飛び上がった二人は、一瞬のうちに扉の前にある踊り場に飛び乗った。 

「さすが、ヴィーナス。運動神経だけは抜群ですものね」 

「まっ!ひっどーいっ!だけは余計よっ」 

「くすくす、さぁ…ヴィーナス扉を開けて」 

「ええ……ん?!ん~~~っっ!!」 

ヴィーナスが扉に手を掛け、開こうとするが扉はびくともしない。 

「んもうっ、開かないじゃない!!」 

「鍵…が掛けられてるのかもしれないわね」 

ヒーラーは扉の右中央にある小さな鍵穴のような物を見ながら言った。 

「鍵ぃ?!そんなの何処にあるってのよっ!!」 

ガタガタと扉を揺らしながら叫ぶが、一向に開く気配のない扉にヴィーナスはピタッと動きを止める。 

「~~~~っっ!…こうなったら…」 

「ちょっ、ヴィーナス?!」 

顔を上げ、バッと右手を横に出したヴィーナスに気づいたヒーラーだが一歩遅かった。 

「壊すまでよっ!!ヴィーナス・ラブ&ビューティーショーックッ!!」 

開いた右手の中に唱文と共に自身のシンボルマークが浮かび上がり金色のハートに変わる。 

そして、そのままチュッとキスをすると光り輝くハートは大きさを増し扉に直撃した。 

「ふんっ!!」 

「…あーあ…扉に大きな穴開けちゃったわよ…」 

ヒーラーが呆れた顔で扉とヴィーナスの方を交互に見ると開いた穴の先から目が眩む程の眩しい光りが二人に押し寄せる。 

「きゃ…っ」 

「うっ…」 

あまりの眩しさに目を瞑る二人。 
その瞬間、身体がふわりと宙に浮いた間隔に襲われる。 

「なに…っ?!」 

「眩しくて目が…ヴィーナス、あたしの手を握ってて!何があるか分からないから離しちゃダメよ!!」 

「…うん!」 

ぎゅっとヒーラーの手を握り、暫く不思議な暖かな感覚に包まれていると、突然周りの空気が変わり、ポンッと音を立て何かが破裂してヴィーナス達は床に投げ出された。 

「ぎゃっ!!いったぁ~いっ!!」 

「~っっ!痛いのはあたしよ…早く退いてっ」 

「えっ?!きゃぁっ!ご、ごめんヒーラー…」 

「…まったく。でも、貴女に怪我が無くて良かったわ」 

「ヒーラー…////」 


───ヴィーナスが顔を赤くしたその時だった。 

《ヴィーナス…こちらへ…》 

「「!!」」 

「ヒーラー…また、声が…」 

「今度はあたしにも聞こえたわ!行きましょう!」 

「ええっ!」 

体勢を立て直し、勢いをつけて彼方に見える光の方へと走る二人。 

だが、いくら走っても光りとの距離は縮まらない。 

「はぁ…はぁ…おかしい…ちっとも近づかないわ」 

「っはぁ…確かに変だわ…でも、きっと抜け道はあるはず…───」 

ヴィーナスはそう言うと、両手で耳を塞ぎ目を閉じた。 

(美奈子、感覚を研ぎ澄ますのよ…感じて…気配のする方向は何処…?) 

《…ヴィーナス・クリスタルパワーを…》 

「!!ヴィーナス・クリスタルパワーを…?きゃっ…ま、眩しい…っ」 

ヴィーナスが言葉を発した瞬間、胸のブローチが輝き出しコスチュームがドレスへとチェンジした。 

「これは…」 

覚えがある。 
前にも一度だけエリシュオンでチェンジした黄色いドレス…活動的な彼女にとって二層の紗になっているロングドレスは動きにくいが、それでも懐かしい感覚がしたこのドレスが美奈子は好きだった。 

「ヴィーナス…綺麗…」 

ヒーラーがヴィーナスに見惚れていると、遠くにあった光りが一瞬で目の前に現れ開け放たれた扉の中から人影がファンファーレと共に出てきた。 

地に着く程長い金色とも黄色ともつかないウェイブのかかった髪を頭の上で一つに束ねている赤いレースのリボン。 

そして、腰の大きなリボンから伸びる総レースの長いトレーンと金色の真珠をあしらったドレスを身に纏う美しい女神… 

≪良くここまで来ましたね、プリンセス・ヴィーナス≫ 

「!!貴女は…」 

≪私の名はアフロディーテー…≫ 

「そんなバカな!!セーラーアフロディーテーは千年以上前に亡くなった筈では…」 

≪…確かに私の身体はとうの昔に朽ち果てました。けれど、金水晶のお陰でこうして意識だけはこの城の祈りの間にとどめることができたのです≫ 

「…一体何の為に…」 

ヴィーナスはただ疑問だった。 
どうして何千年もの間、この場所にとどまらなければならなかったのか。 

「私なら寂しくて死んじゃうわ…」 

≪…寂しい…そうですね、私も以前は寂しくて寂しくて心を闇に支配されてしまう程でした…そして、闇に打ち勝つことができずに…≫ 

「…アフロディーテー…あの…どうして」 

ヴィーナスはそこまで言って言葉に詰まった。何を何処から聞けばいいのか謎だらけの事でヴィーナス本人も分からなくなっていたのだ。 

《…ヴィーナス…貴女の言いたいことは手に取る様に分かります。何処から…話しましょうか。》 

「……」 

《…貴女が私の生まれ変わりとして金星に産まれ、セレーネの子孫であるプリンセスを護る守護戦士になったのも、その前にセーラーVとして覚醒したのも全てこれから先の未来に起こる変異の為。》 

「…変異…?」 

《そうです。ヴィーナス…貴女方はもう変異を感じている筈です。》 

「あのっ、一体何のことですか?!あたしには…」 

アフロディーテーはヴィーナスの言葉を遮るように真剣な眼差しで続ける。 

《変わってしまった未来…》 

「!!どうしてそれを…」 

《私は遥か昔に時の神クロノスから予言書を預かりました。》 

「予言…書?」 

《そう、遥か遠い未来の先の先まで記してあると言う時伝記…その中にちょうど貴女方の時代のことも記してあったのです。未来が二つできてしまうことは有ってはならないのです…》 

「そんな…それじゃあ、うさぎちゃん…いいえ、プリンセスセレニティは幸せになれないわっ!!」 

「ヴィーナス、落ち着いて!」 

「…っ、だってっ!!」 

《…──本来、プリンセスセレニティの持つ幻の銀水晶はプリンセスの体内で永遠の眠りにつく筈でした。そして貴女方も普通の女の子として幸せになれるように…そうセレーネの子孫であるクイーンは望んだのです。 

でも、色々な偶然が重なりメタリアがベリルを遣い地球を襲ってきた…そこで貴女がセーラーVとして戦い殲滅する筈でした。 

ですが、地球のパワーを溜め込んだメタリアの力は巨大でした。 

そして、再び幻の銀水晶も復活した…そこから少しずつ時の歯車が狂いだしてしまった。もうこれはどうしようもないことです。 

けれど、このままではいつかタイムパラドックスが起きてしまう。 

幻の銀水晶を持つプリンセスにタイムパラドックスが起きてしまったら銀河全体に影響が出てしまうのです。最悪、宇宙の消滅…───》 

「そんなことって…」 

ヴィーナスは言葉を失う。 
ただ、うさぎには幸せになってほしいだけだったのに。 

それがこんな形で影響してしまうなんて… 

《──だから、貴女をここに呼んだのです》 

「…え…?」 

アフロディーテーはにこりと笑うと両手を胸の前に出し叫んだ。 

《時を越え聖なる時の力を再び我が手に!出でよ!金水晶───っ!!》 

「な、何?!眩しい…っ!!」 

ヴィーナスが目を開けると、アフロディーテーの両手には金色に輝く銀水晶のような花があった。 

「これは…アネモネ…?どうして金星にはこの花が…?」 

《…アネモネは…少年アドニスが流した血から咲いた花です…》 

「…アドニス…まさか…」 

《ええ。一人の兵士として共に闘い私が愛し、いずれ生まれ変わりである貴女と恋に落ちる筈だった人…》 

「…怪盗…A」 

再び言葉を失うヴィーナス。 
それもその筈、呪いの言葉を残した男が前世の自分が愛した人物だったのだから。 

《ヴィーナス、ショックを受けている暇はありません。私の話を良く聞いて!この金水晶は銀水晶程のパワーはないけれどクロノスの次元を超える力を持っているわ。 

貴女がこの金水晶を使い、セーラームーン達と一緒に変わってしまった未来に行くのです。そして、あちらの未来にいるセーラープルートに時の路を永遠に閉じてもらうよう伝えて。そうすればタイムパラドックスが起こることはありません。》 

「でも、同じ時間に同じ人物が存在してはならないのでは…」 

ヒーラーの問いにアフロディーテーは首を横に振る。 

《…変わってしまった未来ですから、関係ありません。》 

「?!アフロディーテー…身体がっ!!」 

《時が…訪れたようですね…長い時間をかけてようやく私の使命を果たせました…未来を知っていた私はどうしてもこの地を離れる訳にはいかなかった。たとえ肉体が朽ちて意識体だけになっても… 

全ての偶然を必然に変え、貴女がここに来るよう地球に転生してからもずっと見守っていました。 

途方もない長い時でした…でも、これでやっと愛するセレーネの傍に行ける…ヴィーナス、貴女は私の様な寂しい想いはしてはなりませんよ》 

「待ってっ、アフロディーテ───ッッ!!」 

《愛する人とどうか幸せに───……》 

ヴィーナスが叫ぶも、意識体だったアフロディーテーは泡になり消えていった。 

「アフロ…ディーテー…」 

ぽたりぽたりと頬から伝う涙が大理石の床を濡らす。 

(ありがとう…アフロディーテー…) 

「…ヴィーナス……帰りましょう、私たちの星へ。」 

「ヒーラー…」 

「アフロディーテーから大切な使命を預かったんでしょう?星野と月野さんを…いいえ、宇宙を救えるのは貴女しかいないのよ」 

「…ええ…っ!!」 

そして、二人はマゼランキャッスルから出て再び地球へと飛び立った。 

ヴィーナスの体内に金星の女神から受け継いだ金水晶と新たな決意を宿して─────・・・ 



End, 

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