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「女神の系譜-中編-」 by月琉様

前編に引き続きの中編でございます。
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!こちらの作品の転載は厳禁です!




「女神の系譜-中編-」 written by月琉様


「…美奈…きっと大丈夫だからさ、そんな顔しないで?」 

朝食ができるまでの間、夜天の自室に来た美奈子。 

横になる夜天のベッドの側で足を抱えて今にも泣きそうな顔をしている美奈子を見て夜天は頭を撫でた。 

「夜天くん…だって…だって…」 

セーラーV時代からずっと使っていた大切なコンパクトに映った謎の女神。 

その女神の事を記した本が夜天たちの故郷の王宮に補完されていた。 

そしてその本は、時の神クロノスが記したといわれる古代文書… 

何もかもが衝撃的で美奈子は要領オーバーを起こしかけていた。 

「美奈…ねぇ、さっき言ってたセーラーVだっけ?まだ変身できるの?」 

「え?うーん…どうかしら。暫く変身してなかったから分からないけど…多分できるんじゃないかしら」 

「ふーん…ちょっと見たいかも」 

「…へっ?!えぇぇっ!!嫌よっっ」 

「何でさ?」 

「だ、だって…恥ずかしい…じゃない?」 

「恥ずかしい??」 

「その…露出がね…結構…おへそとか出てるし…」 

夜天はベッドを下り、ごにょごにょと喋る美奈子の前に座った。 

「へー?そんな格好を他の男たちには見せて僕には見せないんだ?」 

「う"っっ!!」 

「てゆーか、僕たちのコスチューム以上に露出の高い服ってないと思うんだけど…」 

「う"ぅっっ!!!た、確かに…」 

スリーナイツのコスチュームと比べたらセーラーVの露出など比べ物にならない。 

そう思ってしまった美奈子はがくっと肩を落とし、ボソッと呟いた。 

「…一度、だけだからね…」 

「うん。それでもいいよ」 

…とは言ったものの、セーラーVに変身する為のペンはクインメタリアとの戦いの時に壊れてしまったし、最近はヴィーナスへの変身もヴィーナスクリスタルの力で変身しているからクリスタルチェンジロッドも使っていないのだ。 

(どうやって変身しよう…) 

「あっ!!そうよ、クレッセントコンパクトで変身すればいーんじゃない♪」 

「へー、コンパクトで変身できるんだ?」 

「ほんとは変身ペンで変身するんだけどVに変身するペンは最初の戦いで壊れちゃったの…けど、クレッセントコンパクトは何にでも変身できるからせっかくVにだってなれるはずヨッ」 

そう言うと美奈子は鞄からクレッセントコンパクトを取りだして開くと、頭の上に掲げて叫んだ。 

「三日月パワートランスフォームッ!!」 

「うわっ、まぶし…」 

美奈子が変身の呪文を叫ぶと、一瞬の強い光が部屋に溢れ、夜天は目を瞑る。 

「セーラーVにへ~んしーんっ♪…ってあら?」 

次に夜天が目を開けた時、目の前に居たのはセーラーヴィーナスでもセーラーVでもなく、先程までそこにいた美奈子だった。 

「…変身…できないみたいだね。」 

「…~っ!!どーしてよぉっ!!アルテミースッ!!」 

美奈子が両手を握って上を向き、相棒の名を叫ぶと部屋のドアが思いっきり開きアルテミスが入ってきた。 

「なんだなんだっ?!どうした美奈ッ」 

「ア"ル~!!セーラーVに変身できないのよぉ~!!変身ペンもないし…」 

「はぁ…そんなことか。」 

「そんなことって何よっ!!」 

「美奈。ヴィーナスが君であるように、セーラーVもまた君なんだ。だから、ヴィーナスクリスタルの力があれば変身できる筈だ。」 

「そうなのっ?よーしっ、クレッセントパワー!トランスフォームッ!!」 

美奈子が叫び手を掲げると、ヴィーナスに変身する時の様に身体中がリボンに包まれ腹部が開いた青を基調とした戦闘服へと変わった。 

「─…できたっ!!セーラーVに変身できたわっ!!うさぎちゃーんっ」 

ブルーのハイヒールをカツカツと軽快に鳴らし、美奈子はリビングにいるうさぎの元へと走る。 

「…あーあ…行っちゃったよ」 

そして、すぐにうさぎの黄色い叫び声と大気の「部屋では靴は脱いでくださいね」という声が聴こえてきて、しょんぼりする美奈子が想像でき夜天は苦笑いを浮かべた。 

最初にセーラーVの姿が見たいと言ったのは自分なのに。 

でも、ちょっとイタズラしようとしていた手前、勘の良い美奈子は何か感じたのかもしれない。 

…それはそれで少し悔しいなと夜天は笑う。 

それをどう受け取ったのか定かではないが、下からアルテミスが声をかけてきた。 

「夜天も大変だな」 

「まぁね…もう慣れたよ」 

美奈子はいつもそうだ。 

どれだけ愛しても全てを捧げても結局は彼女には…そう、うさぎには勝てない。 

そんなこと分かりきっているのに、やはり時々胸が痛む。 

かつての自分がプリンセスに忠誠を誓ったように美奈子もまたそうなのだろう。 

でも、美奈子とうさぎは前世からの繋がりがある。 

その絆は決して切れない糸のような物で二人を繋いでいて、自分には入る隙間すらないような感覚に陥る時がある。 

…─けれど、それでもいいと決めたのだ。 

美奈子にとって、自分は居なくてはならない物だと知っているから。 

離れている間、美奈子がどれ程寂しがっていたか。 

自分の事をどれだけ恋しがっていてくれたか。 

あの時、地球に帰って来て美奈子を抱き締めた時に背中に回された手から伝わってきたから。 

「夜天…ありがとう」 

「え?何でお前がお礼言うんだよ」 

「…─美奈は惚れっぽいけど、本気になったことはなかったんだ。あの時怪盗Aに言われたことをずっと気にしてたんだと思う」 

Aとの戦いの末に "最後の恋占いしてやるよ" と言われ、消え行く間際に彼が残した呪いの言葉… 

【君の恋は永遠にかなうことはない…戦い続けろって運命なのさ…──】 

その一言は心に根付いて次第に芽を出し、蔓を伸ばして美奈子の心をがんじがらめにしていった。 

仲間にも誰にも言わずに。 

でも、夜天と出会って夜天が全てを受け入れて、それでも美奈子を愛していると言ってくれてからは、ようやく "恋" と向き合えるようになったのだ。 

「その切っ掛けを作ってくれた夜天には感謝しているよ。愛の女神である美奈が恋ができないなんてカッコ悪いからな」 

「…くすくす、素直じゃないねお前も。本当は心配だっただけだろ?」 

「ふん…うるさいよ」 

「お前と僕は似てる気がするよ。素直じゃなくて、でも好きな子の為なら何でもしたい。そうだろ?」 

「…夜天」 

「美奈は僕が幸せにする。君に誓うよ。だから、これからもヨロシクなアルテミス」 

「…その言葉、忘れるなよ。もし、美奈を泣かしたら許さないからな!」 

「あぁ、約束するよ。ほら、僕たちもリビングに行こう。美奈が暴走する前にさ」 

そう言うと夜天はアルテミスをひょいと抱き上げ、部屋を出た。 

お互いに気に食わないのは、きっとお互いが似ているから。 

だけど、芯の部分は同じなのだ。 
今回の事で少しだけ互いに近くなれた気がしたアルテミスと夜天だった。 

・ 
・ 

その後、大気の手作りの朝食を食べ食後のお茶をしているとピンポーンと部屋のインターフォンが鳴った。 

「誰でしょうね?まだ10時ですよ」 

「ええ…」 

大気が部屋の時計を見上げると、時刻はようやく10時を回ったばかりだ。 

亜美達が来るのにはまだ2時間程早い。 

不思議に思いつつインターフォンに出てみると、周りがどうやら騒がしい。 

《…どちら様ですか?》 

大気がそう問うと、まずレイの声が聞こえた。 

『火野でーす』 

続いてまことの声が。 

『レイちゃん、近いよ!』 

『えっ?あら、ごめんなさーい』 

《その声は木野さんですね。二人ともどうぞ上がってきてください。》 

大気の声に元気良く答えたレイと、それを恥ずかしいからもう少し落ち着いてと宥めるまことは、オートロックが解除されるとエレベーターに乗り込み部屋へと上がって行く。 

そして暫らくして、レイとまこと。続いてその30分後に予定よりだいぶ早く亜美が神妙な面持ちで部屋にやってきた。 

荷物を置くため大気の部屋に入った亜美だが、何時にも増して表情が硬いのに大気が気付く。 

「…亜美。」 

「何ですか?」 

「眉間に皺が寄ってますよ?可愛い顔が台無しです」 

大気はそう言うと、亜美の額にチュッとキスをする。 

「きゃっ?!////」 

「…大丈夫ですよ。」 

「え?」 

「愛野さんなら大丈夫ですよ、きっと。彼女には夜天や私達、そして亜美たちがいる。だから、大丈夫です。」 

「…大気さん……ありがとうございます…っ」 

大気の言葉に落ち着いた亜美はぎゅっと大気に抱き付き、抱き締め返されるとホッとしたように息を吐く。 

ルナから美奈子の事で大事な話があるから集合してと言われた時から、亜美の頭の中はそのことで一杯になっていた。 

もう模試所ではなくて、とりあえず設問は全て埋めたがどんな問題だったのか思い出せない。 

それ程、ルナからの呼び出しは重要な事が多いからだ。 

でも、自分が動揺している場合ではない。 
当事者である美奈子はもっと不安を抱えている筈だ。 

"大丈夫、私達なら大丈夫" 

そう自分に言い聞かせ、部屋の扉を開けリビングに入ると既に全員がルナとアルテミスを囲むように座っていた。 

「亜美ちゃんたちも座って座って!」 

リビングの扉が開いたのに気付いたレイが手招きをして、亜美を呼ぶ。 

「うん。ありがとうレイちゃん」 

「…亜美ちゃん、顔怖いわよ」 

「えっ?!」 

「くすくす。嘘よ、うーそ。…大丈夫よ、大丈夫」 

「レイちゃん…」 

亜美がレイの顔を見ると、横に座っていたまこともこくんと頷いた。 

「…うん。」 

「──さて。どこから話そうか。そうだな…ちょっと昔話しでもしようか」 

皆が座ったのを確認したアルテミスは、ひょいっと真ん中に置いてあるガラステーブルの上に飛び乗り話しはじめた。 

そう、遠い遠い昔。 
シルバーミレニアムを初代女王が納めていた頃の話しを。 

・ 
・ 
・ 

遥か昔、月の王国は双子の王女が納めていた。 

その名はセレーネとアフロディーテー。 

月の王国は二人の王女が持つ「幻の銀水晶」と「幻の金水晶」の力で平和を保っていた。 

ところがある時、時空を越え侵略者が現れた。 

蒼く美しい地球に住む生物の祖先を根絶やしにし、未来の自分達が住み良い星に変える為に。 

王女達の力で侵略者からの脅威は消え去ったが、全てを見ていた時の神クロノスが月に降り立ち、二人にこう告げた。 

「これから先、悪の心を持つ物達が地球、果ては銀河全てを狙ってくるだろう。そうなれば、お前たち二人ではたちうちできまい。だから、そうなる前にお前たたちは二手に分かれてこの銀河系を守るのだ」 

そして、地球を挟むように月には女王セレーネを、金星には女王アフロディーテーを即位させた。 

元よりアフロディーテーは活発な女性だったので、金星では女王としてだけではなくセーラー戦士としても活躍し兵士たちと共に銀河系を守ったんだ。 

その名もコードネームセーラーV。 
Vはヴィーナスの略称で、そうすることで女王としての自分とセーラー戦士としての自分の区切りをつけたらしい。 

けれども、アフロディーテーは寂しかった。 

産まれてからずっと一緒にいた双子の姉と遠く離れて暮らしているうちに、心が寂しさに蝕まれて行ったんだ。 

そして、そこを敵に漬け込まれ金水晶のパワーを解放しようとした時に、駆け付けた姉のセレーネに「自分を殺して」と頼みセレーネに剣を握らせ自分の胸に刺す。 

悲しみに暮れたセレーネは、自らも死のうと剣を握るが、アフロディーテーの涙から小さな光る球体が産まれた。 

その球体を胸に抱くと、球体はたちまち強い光を放ち金星の海に吸い込まれるように消えていく。 

その光景を見て、セレーネは感じていた。 
「あれはアフロディーテーの生まれ変わり」ではないかと。 

そこで、セレーネはもう少し生きて見ることにした。 

最愛の妹が愛したこの銀河系を守るためにはもっと戦士が必要と考えたのだ。 

自分の力を受け継いで戦士と共に戦える子孫を残そうと。 

「そして、クイーンセレニティが産まれ、その娘であるプリンセスセレニティが産まれる100年ほど前に金星の海から誕生したのがセーラーヴィーナスなんだ。」 

アルテミスはそこまで話すと、ふうっと息をつき、唖然としている美奈子の膝にひょいと飛び降り続けた。 

「──…つまり、君は女王アフロディーテーの生まれ変わりなんだよ美奈。」 

…一瞬の沈黙。 
そこにいる全員が息を飲んだのが分かる程空気がしんとした。 

そして、その沈黙を破ったのは美奈子でもうさぎでもなく夜天だった。 

「でも、美奈は美奈でしょ?どうして今更…」 

夜天が言うと、アルテミスは首を横に振る。 

「…それは、僕には分からない。けど、何か美奈に伝えたい事があるのかもしれない」 

「あたしに…?」 

「うん。クレッセントコンパクトに現れたということは、ヴィーナスとしてではなくセーラーVの君に気付いてほしかった様に僕は思えるんだ。」 

そのまま暫く口を閉ざしたアルテミスにイライラしながからレイが言った。 

「でも、その理由が分からなくちゃどうしようもないじゃない。他に覚えてることはないの?!」 

「レ、レイちゃん落ち着いて!」 

「落ち着いてらんないわよ!大体にして、どうして今までこんな大事な事を黙ってた訳?!」 

一気に捲し立てるレイにアルテミスは一瞬怯んだが体勢を整え、続けた。 

「……実は…僕もそのことを思い出したのはつい最近なんだ。」 

「「「「「えぇっ?」」」」」 

「あたしもアルテミスにその話しをさっきされるまで忘れてたわ。忘れる筈のないことなのに…」 

「ルナも?…もしかしたら記憶を操作されてたんじゃないかしら。」 

「記憶を…ですか?」 

不思議そうな大気に亜美はルナが最初はうさぎがプリンセスだという記憶を封印されていたことを話した。 

「成る程。それなら有り得ますが、それならば何故今その封印が解かれたかという疑問が残りますね」 

大気を含め部屋に居たみんなが首を捻った。 

確かにそうなのだ。 

もし、クイーンセレニティがルナとアルテミスに封印を施していたのなら前世の記憶を取り戻した時に一緒に思い出しても良さそうなのに… 

どうして "今" 封印が解かれたのだろうか。 

謎は深まるばかりで、意見も出ないまま30分が過ぎた頃、沈黙に耐えられなくなった美奈子が叫んだ。 

「…~っっ!!も───ぅっ!!焦れったいっ!あたし一人で行くわっっ」 

「ちょっと美奈!落ち着きなよ」 

「美奈子ちゃん行くって何処に?」 

「決まってるでしょ、うさぎちゃん!」 

「へ?」 

「金星によ!」 

「……え。えぇぇぇぇっ?!!」 

他のメンバーも驚きはしたがうさぎの大絶叫に逆に冷静になり、一番先にまことが誰もが疑問に思ったことを聞いた。 

「美奈子ちゃん。行ってどうするんだい?」 

「分かんないわっ!」 

「っておい!即答かよ!!それじゃ行く意味ねーだろ、愛野」 

「…でも、行けば何か分かる気がするの」 

「あたしは反対だわ。」 

「レイちゃん…」 

「何があるか分からないのよ?危険すぎるわ」 

「…っ!だけどっ」 

美奈子が次の言葉を言う前に、横に座っていた夜天が静かに立ち上がり美奈子の手を握りながら続けた。 

「なら僕が一緒に行くよ」 

「夜天くんっ!!」 

「ですが夜天…本当に何があるか分からないんですよ?」 

「分かってる。でも、このままじゃ美奈は納得できないと思うんだ。なら、やっぱり行って確かめてきた方がいい。危険だからこそ僕が美奈を守るよ」 

そこにいた全員が反対だった。 
だが、そこまで言い切った夜天の顔があまりに真剣だったので何も言えなくなる。 

いつもはクールな夜天が美奈子の事になると大気にも星野にも劣らないパワーを持っていることを知っていたからだ。 

「──…はぁ。仕方ありませんね」 

「大気…」 

「っつたく!カッコ付けやがって」 

「…星野には言われたくないけどね」 

「なにをっ?!」 

「まぁまぁ、落ち着きなさい二人とも。…月野さんはどう思いますか?」 

「へえっ?あ、あたし??」 

突然大気に話題を振られたうさぎに一斉に注目が集まる。 

「えっと…うーんと…ね?美奈子ちゃんがそうしたいなら行ってもいいと思うよ。」 

「うさぎちゃん…」 

「もちろん危険なことがあるかもしれないけど、それよりもモヤモヤしてるままの方が美奈子ちゃんはイヤなんじゃないかなぁって。」 

困りながらも美奈子の心情を的確に言い当てるうさぎは流石だ。 

"うさぎには隠し事はできない" 

いつの間にかセーラーチーム全員が何処かで思っていた。 

理屈じゃないのだ。 

うさぎはオーラと言うか感覚でそれを読み取っているのかもしれない。 

時々そう強く思わされる時がある。 

そして、こうなれば皆の思うことは一つしかない。 

「…ルナ、金星にはどうやって行けるの?」 

「「亜美ちゃん?!」」 

まさかの亜美の肯定とも言える発言にレイとまことは驚いた。 

「だって…もう仕方ないわよ。何も無いことを祈るしか私たちにはできないけれど…美奈子ちゃん、行ってらっしゃい!」 

「亜美ちゃん…っ!うん、行ってきますっ!!」 

そう元気に答えた美奈子の顔は心から嬉しそうで、それを見たレイもまこともようやく納得した。 

いや、せざるを得なかったのかもしれない。 

もし、自分が美奈子の立場だったらどうしてた? 

きっと、今の美奈子のように居ても立っても居られずに同じ決断をしただろう。 

「…コホン。それでね、皆。金星に行く方法だけど…前に月に行ったのを覚えてる?」 

セーラー戦士になりたての頃、うさぎたちは幻の銀水晶の謎を解く為に月へと行ったことがあった。 

ルナがそのことを言っているのを美奈子は直ぐに理解した。 

「えぇ、覚えてるわ。つまり、あの時みたいに変身する時のパワーで金星まで行くってこと?」 

「その通りよ美奈子ちゃん。でも、一つ問題があるの。」 

「問題?」 

「金星はね、月と同じで満ち欠けをするの。その満ち欠けが始まるのが8月。」 

「じゃあ、今はまだ4月だから問題ないじゃないか。」 

まことが言うと、ルナは首を横に振り続けた。 

「ううん、そうじゃなくて。金星は満ち欠けが始まるにつれて地球からの見え方が大きくなるんだけど、今はまだ4月だから半分くらいの距離しか地球に近づいてないのよ。」 

「…っ!じゃあ行けないって事っ?!」 

「美奈子ちゃん、落ち着きなよ!」 

「だって…」 

まことに宥められ、しゅんとなった美奈子を見かねてアルテミスがつぐんでいた口を開く。 

「…方法はあるよ。」 

「アルテミス!!」 

「…ヴィーナスクリスタルとクレッセントパワーを使うんだ。そうすれば二倍の力が出せる筈だ。」 

「ヴィーナスクリスタルとクレッセントパワーを…?」 

「けど、凄くパワーを使うし初めての事で何が起きるか分からないからあまり勧めたくはなかったんだ」 

「…いいわ。やってやろうじゃないっ!」 

「美奈…」 

「だって…あたし、どうしても金星に行きたいの!ううん、行かなくちゃならないのよ!」 

「…分かった。みんなも協力してくれ!」 

アルテミスの呼び掛けに、まこと・レイ・亜美にうさぎ。それに大気と星野が頷き、そして… 

「僕からもお願いするよ」 

夜天もみんなに頭を下げた。 

「や、夜天くんっ?!」 

「ほら、美奈もお願いしなくちゃ」 

「えっ?あ…お願い…しまっす!!」 

「もー…しょうがないわねぇ。協力してあげるわよ!」 

「レイちゃん…」 

「夜天くんに頭下げられちゃ嫌とは言えないもの~」 

「レ、レイちゃん酷いっ!!」 

「…くすっ、美奈子ちゃんが納得できるまで帰ってきちゃダメよ?」 

「うん…ありがとうレイちゃん。」 

冗談交じりに言うのは心配してくれてる証拠だということを美奈子は知っているから、同じノリで自分も返せる。 

だから、その後に今みたいな嬉しい一言を言ってくれるのがレイの良いところであり、俗にいうツンデレなのかなと美奈子はいつも思っていた。 

「ねぇ、亜美ちゃん」 

「なぁに?うさぎちゃん」 

「さっきルナが金星も満ち欠けするって言ってたけど、満ち欠けって月だけじゃないの?」 

「あら、うさぎちゃん良く気づいたわね。そもそも満ち欠けって言うのはね…」 


月は太陽の光を受け輝いて地球の衛星として、地球のまわりを回っている。 

それにより、月が地球のまわりを動いて いくと、太陽の光を受ける部分と影の部分との比率が、地球から見て少しずつ変化する。これが満ち欠けの原因である。 

満ち欠けとともに見える場所がちがってくるのも月が地球のまわりを動いているからであり、新月の時には月は地球から見て太陽の方向にあり、動いていくにつれて次第に明るい部分が太くなっていき太陽と反対側に来た時に満月となる。 

「月や金星、水星は地球の回りを公転する星を内惑星というのよ。」 

「因みに金星の満ち欠けを発見した天文学者ガリレオ・ガリレイは当時の教会の弾圧を警戒し、研究仲間への手紙に愛の母がダイアナの真似をしていると暗号化した追伸を書き送ったんだ。」 

自分が聞いたこととは言え、亜美とアルテミスが話す話題に頭がついていかず「むぅ…」と顎に指を当て黙ってしまった。 

「難しい話だな…おだんご、大丈夫か?」 

星野がうさぎに訪ねるが、うさぎは尚も黙りこくる。 

「…おだんご…?」 

「うさぎちゃん?」 

「うさぎ?」 

黙り込むうさぎを心配して、美奈子やレイが顔を覗き込むと、ようやく顔を上げ一言… 

「…わかった」 

「何がだよ?」 

「んもうっ、星野は黙ってて!!」 

「なっ!ひでぇ…」 

うさぎの言動にいつも振り回されている星野を可哀想だとは思いつつも、みんなは次にうさぎが紡ぐ言葉を待った。 

「それで。何が分かったの?うさぎちゃん」 

「愛の母がダイアナの真似をしてる…それで分かったの。美奈子ちゃん…ううん、ヴィーナスがわたしの影武者だったこと、Vちゃんが "クレッセントパワー" を持っていること…つまり…──」 

「月の王女と金星の王女が双子だったからってこと?」 

「ううん、それだけじゃないと思う…でも、それが分からなくて…」 

そう言ってまた考え込みそうになるうさぎに美奈子が言った。 

「分かったわ、うさぎちゃん。金星に行って謎を解き明かしてくる!あの時のうさぎちゃんみたいにね!」 

パチンっとウインクをすると、難しい顔をしていたうさぎが笑顔になる。 

「美奈子ちゃん…うん、頑張って!」 

そして、にこっと笑ううさぎに美奈子も顔が綻ぶ。 

(…くすっ、この笑顔にいつも元気付けられるのよね) 

「そうと決まれば、決行は早い方がいいわね…今週末の金曜日、日没後にしましょう。」 

「…うん!!」 

「みんなもいいわね?でも、場所を何処にしようかしら…目立つとまずいわ…」 

最初に月に行った時は満月が公園の真上にくるような時間帯だった為、公園には人の姿はなかった。 

だが、今回は日没後だ。 
それも宵の明星と言われる日没後に金星が見える時間は三時間程度と短い。 

「私のマンションの屋上はどうかしら。普段は人も入れないし…天体観測に使いたいって管理人さんに話してみるわ」 

「さっすが、亜美ちゃん!」 

「じゃあ、亜美ちゃんお願いしてもいいかしら。」 

「えぇ、勿論よ」 

「…ありがとう…みんな」 

ここまでしてもらうのだから、行くしか無い。金星へ行って必ず謎を解き明かしてみると美奈子は拳をぎゅっと握った。 


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