軽いリクエストのつもりが気付けばこんな大事になっていました。
なんという長編、なんという深いお話…
私自身、Vちゃん時代の美奈を知らないのでとっても興味深々なお話です。
そして月琉さまのオリジナル設定もおり合わさり、一層奥ぶか~いお話となってます。
月琉さま、貴重なお時間を割いて頂きありがとうございます(≧ヘ≦)
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「女神の系譜-前編-」 written by月琉様
「あれぇ~?どっこしまったっけなぁ」
明日の仕度も済ませ、あとは寝るだけというような時間帯にガサガサと乱雑に机を漁る美奈子を見て、相棒である白い猫のアルテミスが重い溜め息を一つ吐いた。
「はぁ…美奈っ!女の子なんだからもっと整理整頓しとけよ!そんなんじゃいつか夜天に愛想つかされるぞ」
「う"っ…」
美奈子はアルテミスのその言葉に漁っている手を一旦休め、くるりと後ろを振り向く。
「…うっさいわね。あんたこそルナのことしっかり捕まえといた方がいいんじゃなーい?」
「なっ、なんのことだよ?!」
「あーら、知らないの?ルナ最近モテてるみたいで、昨日も美形の猫ちゃんと歩いてたわよ」
「ガ───ン…ま、まさかルナに限ってそんなこと……ちょっと出てくる」
アルテミスはそう言うと、器用に窓を開けて外へ降りると、あっという間に夜道へ消えて行った。
「くすくす、ルナも大変ね。あっ、そうだ!確かあそこに…」
まず美奈子は机の隅に置いてある小物入れから、あまり使うことのない小さな鍵を取りだし引き出しの鍵穴に入れた。
カチッと鍵の開く音がすると、長らく開けることのなかった引き出しの中身が露になる。
この引出しは、要は "宝箱" と言った所だろうか。
小学校の頃から大事な物は何でもこの引出しにしまっていた。
最初は自分だけの秘密ができたみたいで嬉しかったが、大きくなるにつれてそれがごく当たり前の様になっていた。
友達から貰った手紙に、壊れてしまったけど捨てられないオルゴール。
それに、今まで好きになった人の写真やらも入ってる。
もちろん、夜天には内緒で。
あとは──…
「…クレッセント…コンパクト…」
自分をセーラー戦士として育て上げてくれた大事なコンパクト。
使わなくなった今でも大切な宝物。
「くすっ、あの頃はアルがちゃんと充電しろーってうるさかったなぁ…」
美奈子がそう言いながらコンパクトを手に取り、開く。
…一瞬の違和感。
「…?あれ…あたしが映ってる。」
鏡なのだから、自分が映っているのは当たり前だ。
だが、そうじゃない。
美奈子はセーラーヴィーナスとして覚醒後、うさぎたちと共にヴィーナスとして戦うようになってからは一度もセーラーVとして変身したことはない。
その時からクレッセントコンパクトは机のこの引出しにしまってある。
クレッセントコンパクトは月の光を受けて充電される。
充電をしないままだと、鏡面が黒くなって何も映し出さなくなってしまう。
だから、今のクレッセントコンパクトは鏡として機能していない筈。
「どうして…」
美奈子がそのままコンパクトに写った自分の姿を見つめていると自分とは別にもう一人の自分の姿が浮かび上がってきた。
「…セーラーV……えっ?!」
そこにはセーラーVの姿と重なり合うようにもう一人、見たことのない女性の姿がぼんやりと浮かんでいた。
それは月のプリンセスを思わせるような長い髪に、透き通る青い涼しげな瞳の女性…
一見するとシルバーミレニアムにいた頃の髪を下ろしたセレニティのように見えるが、髪の色は金色。
そして、コンパクトの境で切れてしまっている頭の部分に赤い物が見えたのだ。
"赤いリボン…"
美奈子は直感でそう感じた。
…それに、クレッセントコンパクトは真実の姿を映し出す鏡。
ここに映っているのは間違いなく、美奈子の真実の姿の筈だ。
だが、セーラーヴィーナスが映る訳でもなくセーラーVが映り、そして重なるように映った見覚えのないこの女性は誰なのだろう?
いや、それ以前に充電をしていない筈のコンパクトが何故…
美奈子は鏡面を見つめたまま考え込んでしまった。
「…でも…この人…あたし…知ってる…?」
"知ってる" というよりは "懐かしい" ような感覚が正しいのかもしれない。
彼女の纏うオーラは何となく自分に近い物のような気がする。
だが、何かが違う。
そう…例えるなら自分より強い力を持つ物のオーラ。
"自分に似てる" けれど、"自分より強い"
美奈子はますます頭を抱えてしまう。
こんな時に限ってアルテミスはいないし…いや、追い出したのは自分なのだが。
「あーん、もうっっ!なんなのよーっ」
あと少しで何か思い出せそうなのに頭の中に靄がかかったようなもどかしさが美奈子を苛々させる。
──その時。
窓にコツンと小石のような物が当たる音が聞こえた。
続けてもう一度。
「夜天くんだわ!」
夜天は二回続けて小石を窓に投げる。
二回投げるのは "み な" ということだと気付いたのはつい最近のこと。
美奈子はこの二人だけの秘密の合図が電話より好きなので、夜天はいつもこうして自分が来たことを知らせる。
「夜天くんっ!」
「や。」
「今下行くから待ってて!…っ、あっ!!」
「え?」
コンパクトを持ったまま窓のサッシに手を着いていた美奈子は慌てて窓を閉めようとした拍子にコンパクトを下に落としてしまった。
「コンパクトが…」
「コンパクト?僕が拾っとくから、ゆっくりおいで」
「うん…」
そう言うと美奈子は窓を閉めカーテンを引いて灯りを消したようだ。
「コンパクトねぇ…これか…ん?これって…」
拾い上げたコンパクトを訝しげに見つめる夜天。
と、ちょうどそこに玄関の扉を開き、美奈子が駆けてきた。
「ごめん、夜天くんっ!」
「大丈夫だよ。それよりこれって…」
「夜天…くん?」
コンパクトを見つめたまま暫し黙りこむ夜天を見て美奈子は思った。
(そう言えばセーラーVのこと殆ど話してなかったものね)
勘の良い夜天ならこのコンパクトが普通のコンパクトではないことに気付いたのだろう。
美奈子はただ単純にそう思った。
「あのねっ、これは…」
美奈子が説明をしようと口を開くと、それを遮るように夜天の口から全く違う言葉が出てきた。
「これって…セーラーアフロディーテーのコンパクトじゃ…」
その瞬間、辺りの時間が止まったような錯覚に陥る。
「…セーラー…アフロディーテー…?」
*
*
───・・・その夜美奈子は深い眠りの合間に夢を見た。
地に着く程長い金色とも黄色ともつかないウェイブのかかった髪を頭の上で一つに束ねている赤いレースのリボン。
そして、腰の大きなリボンから伸びる総レースの長いトレーンと金色の真珠をあしらったドレスを身に纏う美しい女神の姿を。
女神が背にしているのは何処かの宮殿だろうか…まるでかつてのシルバーミレニアムのようだ。
声をかけたいのに、かける名前が出てこない。
"知らない" のではない。
"思い出せない" のだ。
何かが邪魔をして、記憶に鍵をかけている。
「待って…」
やっと出たその一言に女神は足を止め、ゆっくりこちらを向いた姿に美奈子は目を見開く。
「…え…?」
いつの間にか女神の右手には身の長より長いロッドが握られていた。
そして、その先にはピンク色に輝く宝玉が中央に埋め込まれた大きな三日月が。
まるで、自分が持つクレッセントコンパクトとセーラームーンの持つムーンスティックが合わさったようなロッド。
「貴女は…」
『私の名は…アフロディーテー…』
「アフロディーテー…?」
『セーラー…アフロディーテー』
そう女神が名乗った途端、突風が吹きぶわっと辺りに咲いていた白いアネモネの花片が舞い上がる。
「きゃぁっ!!待って…」
美奈子が呼び止めるが、舞い上がったアネモネの花片が女神の姿を隠し消してしまった。
・
・
・
…目が覚めると、そこはいつもの自分の部屋だった。
「そっか…眠っちゃってたんだ…でも…」
家に入った覚えも、ベッドに入った記憶も実のところないのだ。
ただ、ぼんやりと夜天が『明日コンパクトを持って僕の家においで』と言っていたような気がする。
「…とりあえず…起きようかな。」
まだ覚め切らない頭のまま美奈子はベッドから下り、朝日で透けたカーテンを開いた。
「…クレッセントコンパクト…」
(そうだ…充電してたのよね)
普段は机の引き出しに仕舞いっぱなしで充電することなどないコンパクトだが、夜天にコンパクトを持ってきてと言われたので昨夜は充電をしたのだ。
美奈子がおもむろにコンパクトを開くと、そこには美奈子の真の姿であるセーラーヴィーナスが映っている。
「……何だったんだろう…それにしても…」
美奈子は朝日が差し込み明るくなった部屋を見渡す。
こんな時に限って相棒のアルテミスは昨夜から帰ってきていないようだ。
「…もう。どこ行ったのよーっ!アルテミスぅっ!!」
そう叫んだ瞬間、鍵のかかっていなかった窓がガラッと開きアルテミスがひょこっと顔を覗かせた。
「呼んだ?」
「!!アルテミスッッ」
「みぎゃっ?!!」
がしっと身体を両手で掴まれたアルテミスは顔を青ざめながら美奈子を見上げた。
「…美…奈?」
「…ううっ…アル~ッ!」
「ぐえっ!お、落ち着けって美奈!絞まる絞まるっ」
「えっ?あぁっ、ごめんごめんっ」
「ふう。一体どうしたって言うんだよ?夜天と喧嘩でもしたのか?」
「ちがうわよっ!しつれーしちゃう!あたしと夜天くんが喧嘩なんかするわけ……」
アルテミスの問いに最初は否定しようとした美奈子だが、ふと一昨日も些細な事で喧嘩になりそうになったのを思いだし口をつぐむ。
「って、そーじゃなくてっ!!実はね…」
「セーラー…アフロディーテー…だって?!彼女がクレッセントコンパクトに映ったのか?!」
美奈子が事の次第を話すと、今まで眠たそうな顔をしていたアルテミスは顔色を変えた。
「う、うん…ねぇ、アルテミス。セーラーアフロディーテーって誰?あたしと何か関係があるの??」
「いや…僕が知る限り美奈とは関係ない」
アルテミスはそう言うと踵を返し、ひらりと窓を乗り越え再び道路に下り立つ。
「ちょっ、何処行くのよ?!」
「もう一度ルナの所に行ってくる。後で僕も夜天の所にうさぎ達と行くから!じゃっ」
「ちょっとっ!アルテミスーっ!?もうっ…行っちゃった。」
焦ったようにルナの元へ行くアルテミスを見て、美奈子も何処と無く不安を感じはじめていた。
美奈子は "知らない" ということが嫌いだ。
何にでも興味を持ち、色々な事に頭を突っ込みたがるのは彼女の性格なのともう一つ。
自分が知らないことがあると不安になるから。
だから、美奈子にとっては後先考えずに行動して失敗しても知らないよりはずっとマシなのだ。
「何よ…みんなして。一体どういうことなの…?」
開け放した窓辺に手を着いて空を見上げると、もうすぐ訪れようとする春を感じさせる柔らかい風が何処からか白い花びらを運んで行く。
「そう言えば夢でも…白い花が咲いてたわよね…あの花って何ていう花かしら。あっ!確か本棚に…うーんと…あった!」
美奈子は、以前まことが家に忘れて行った花言葉の本が棚にあることを思い出した。
花言葉の本と言うのは大概、それぞれの花言葉と一緒に花の写真が載っている。
だから、そこにあの花が載っているのではないかと美奈子は思ったのだ。
美奈子がぺらぺらとページを捲っていると、目当ての花が載っているページを見つけた。
「多分これかな?何々、"アネモネ" って花なのねぇ。あら、花言葉も載ってる…って花言葉の本だもん、当たり前か。で、花言葉は…白いアネモネは… "真実" …。」
その花言葉を目にした途端、美奈子は自分の中の不安が強くなった気がした。
"真実" を映す鏡であるクレッセントコンパクトに謎の女神の姿が映り、夢で見た女神の周りに咲き誇っていた白いアネモネの花言葉も "真実" 。
美奈子には無関係なことだとは思えなかった。
「…夜天くんの所に行かなきゃ」
そうだ。
彼は何かを知っている。
なら、早く真実を知って胸の不安を消してしまいたい。
そんなモヤモヤした感情が胸に渦巻いたまま、美奈子は全ての仕度を済ませ家を出た。
(…でも、どうして夜天くんが…)
そう。
自分さえも知らない事を夜天が知っていた。
しかも、アルテミスはルナとうさぎを連れて夜天の所に来るという。
どういうことだ?
もしかしたら前世と関係があるのだろうか。
いや、自分が覚えている限りでは前世で "セーラーアフロディーテー" という名前に聞き覚えはない。
それに、もし前世での出来事ならば夜天が知っているのはやはりおかしい。
「???っていうか、アルテミスも何か知ってるような口振りだったわよねっ!なーんで話してくれなかったのよっと!」
家を出た美奈子は公園を通り、路地裏の車止めを飛び越え金網を乗り越えてあっという間に夜天たちのマンションの前に到着した。
「うーん!ベストタイムねっ!やっぱりあのルートだと早いわっ♪さてと…」
美奈子がマンションの前に立ち、扉に手をかけると後ろから声がかかった。
「美奈!」
「夜天くん?!こんな朝早く何処行ってたの?」
自分以上に朝か弱い夜天。
それなのに、今はまだ7時を廻ったばかり。
「これ、取りに行ってたんだ」
そう言って夜天が上げた手には古そうな重厚な本があった。
「本??」
「そ。とりあえず中入ろうよ?…ふぁ~ぁ…僕眠いし」
あくびをしつつ夜天がマンションのオートロックを外し、二人揃ってエントランスからエレベーターへと乗り込む。
「眠いしってこれから寝るの?もう7時よ?」
「まだ7時でしょ。」
「そうだけど…」
美奈子としては早く昨日の事を知りたいのだ。
勿論、夜天もそれを分かっていない訳ではないが兎に角今は眠い。
「ごめ…美奈、僕昨日寝てないからさ少しだけ寝かせて。ね?」
「えっ?!夜天くん帰ってから寝てないの?何で…」
「とりあえず話しは後。美奈、合鍵で開けて。」
「…? う、うん」
美奈子は一瞬の違和感を感じたが、その正体が分からないまま鞄から合鍵のキーチャームを掴みカチャっと施錠を外した。
「夜天?」
「あぁ、おはよう大気」
「貴方、部屋で寝てたんじゃないんですか?いつ外に…」
「うん、ちょっと窓からね」
「窓から?!」
(あぁ、だからさっき変な感じがしたのね。でも何で窓からなんて…)
夜天の後ろで美奈子が顎に指を乗せながら考えていると、ようやく大気が美奈子の存在に気付いた。
「おや、愛野さんもご一緒だったんですか。」
「おはようございます、大気さん。すみません朝早くから…」
「いえ、それは構いませんが…愛野さん、顔色があまり良くないようですが大丈夫ですか?」
「えっ?!あー…ちょっと寝不足かな?でもこれくらい全然へっちゃらですからっ」
「それならいいんですが…無理は良くありませんからね」
「…はーい」
(うぅ…さすが大気さん、鋭いわっ)
美奈子がまじまじと大気の顔を見ていると、大気は目線を夜天へと移し手に握られている物に気付いた。
「…夜天…それは…もしやキンモク星の書庫に補完されていた本ではないんですか?」
「えっ?!キンモク星?!どういうこと?夜天くん!!」
「…そうだよ。良く気付いたね、大気。美奈には後で説明するから。ね?」
「う、うん…」
「…どうして夜天、貴方が "それ" を持っているんですか?…私にも説明、してもらえますよね?」
「これは…」
面倒臭いことになりそうな気がした為、一瞬は言い訳を考えようとしたが、夜天は大気の余りにも真剣な顔に一つため息をつき「分かったよ」と答えた。
「──…成る程。それで、夜天はキンモク星まで本を取りに行ってたと言う訳ですか。」
事のあらましを夜天から聞いた大気は、その横で眉間に皺を寄せている美奈子に気付く。
「愛野さん。」
「はい?」
「愛野さんは、彼女のことを知らなかった。でも、それは至極当たり前の事なんですよ」
「…どういう意味ですか?」
首を傾げる美奈子に夜天が続けた。
「あのね、美奈。この本は王族しか読めない王宮の書庫に補完されているんだ。まぁ、僕と大気は以前プリンセスの用事で書庫に行った時に偶然見付けたんだけどさ」
「う、うん…でも、王族しか読めない本って一体何なの?」
「…これは時の神、クロノスが記した本と言われているんですよ。あくまでも言い伝えですが」
「か、神ぃ?!クロノスってあのクロノス?!」
「そう。だから、一般の人の目には入らないようになってるんだ」
そこまで聞いて、美奈子の頭はパンク寸前になっていた。
とりあえず、キンモク星の王宮の書庫にセーラーアフロディーテーの事を記した本があり、夜天と大気は以前にその本を読み彼女のことを知っていた。
でも、根本的な疑問は残ったままだ。
どうしてクレッセントコンパクトに彼女の姿が映ったか、何故本の中の彼女がクレッセントコンパクトを持っているか。
「ね、ねぇ!この本何て書いてあるの?大気さんなら読めるんじゃないですか?!」
「…残念ながら、私もようやくセーラーアフロディーテーの名前だけ読めたんです。あとは、古代文字なのか全く…」
「そんなぁ…」
美奈子が、がっくりと頭を垂れていると部屋のチャイムが鳴った。
ピンポーン
ピンポーン
「はい。あぁ、どうぞ。今ロックを開けますからエレベーターで上がって来てください。」
「大気、誰?」
「月野さんと愛野さんの猫さんですよ」
程無くして部屋のチャイムが鳴りアルテミスとルナ、そして不安そうな顔をしたうさぎがやって来た。
「美奈子ちゃんっ」
「わっ?!うさぎちゃん、どうしたのそんな顔して…」
目が合った瞬間、飛び付いてきたうさぎを美奈子は抱き止めると自分から離し顔を見た。
「だって、アルテミスとルナが訳分かんない話しばっかしてて、それで美奈子ちゃんがどうのこうのなんて言うんだもん…心配になっちゃって」
「うさぎちゃん…ありがとう。」
誰よりも仲間を心配してくれるうさぎを美奈子はとても嬉しく思う反面、時々心配になる。
優しいが故に、色々溜め込んでいつか自らが潰れてしまわないか…
いや、そんなことさせない。
少くとも自分が傍にいる間は。
「アルテミス!早速だけど…」
「…分かった。でも、亜美とレイ、まことが来るまで待ってくれ。大気、亜美は?」
「今日は朝から模試があると言ってましたが、昼過ぎには家に来ますよ」
「レイちゃんとまこちゃんもお昼くらいには来れるって言ってたよ!ね、ルナ!」
「えぇ、ただレイちゃんは直ぐに神社の仕事に戻らなくちゃって言ってたわ。」
うさぎとルナの話しを聞いて、美奈子は焦った。
ルナやアルテミスが、こうやって改めて皆に話しがあると言う時は良い話しだったことは極めて少ない。
しかも、夜天のことが嫌いなアルテミスがこうしてわざわざ家に出向いてくるなど余程の事があったとしか思えないのだ。
…そんな難しい顔をしている愛しい恋人を見かねて、夜天はふぅっと息をつき立ち上がった。
「…とりあえずさ、朝ごはんにしない?」
「え?」
「そうですね、こんな時だからこそしっかり食べた方がいい。愛野さんと月野さんもご一緒にいかがですか?」
にっこり笑う大気に緊張が少しほぐれた美奈子はうさぎと顔を見合わせながら、くすっと笑いながら返事をした。
「「いただきますっ♪」」
「くすっ、分かりました。お二人の分も用意しますから座っててください」
「あっ、あたしあたしっ手伝いまーすっ」
「美奈は僕の部屋に行くの!」
「え~?!せっかく夜天くんに愛情たっぷりの朝ごはんをと思ったのにぃ~」
夜天は頬をぷくぅっと膨らませて怒る美奈子の耳元でそっと囁くと、一瞬で顔を真っ赤にした彼女の手を引き部屋に入っていった。
「あらら~、行っちゃったわ。…ところで大気さん」
「何ですか?月野さん」
「星野は??」
「…え?」
その頃星野は、部屋の外の騒ぎなど全く知るよしもなく自室で爆睡していた。
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